インフルエンザ万能ワクチンとして期待されている「ナノ粒子」

インフルエンザワクチン(従来型)の仕組み

状来のインフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルス表面のタンパク質、ヘマグルチニン(HA)やノイライミダーゼ(NA)の突起部分に働くように設計されています。

ウイルス表面の突起部分に対する抗体を、ワクチン接種によって前もって体内に準備しておくことで、ウイルスが体内に侵入した際、抗体がインフルエンザウイルスの突起に結合、ウイルスの働きを抑え増殖を防いでいます。

インフルエンザウイルスは主に「上気道」(鼻やのどなど)表面で増殖するため、血液中でつくられた抗体が上気道表面の粘液とともにしみでて、作用するのではないかと考えられています。

従来のインフルエンザワクチンの課題

いくつかの課題が挙げられますが、ここでは2つ紹介します。

一つ目は、「上気道」で効くワクチンの開発です。

「上気道」で効くワクチン

従来のインフルエンザワクチンは、抗体が血液内に作られるため、重症化の原因となる血液内に侵入したウイルスをターゲットにしています。

このため、「上気道」で抗体が作られ、より有効に作用するワクチンの開発が課題です。

二つ目は、インフルエンザの型にとらわれずに効く、「万能ワクチン」の開発です。

万能インフルエンザワクチン

従来のインフルエンザワクチンは、突起の型が違うと効かなくなるので、どんな型にも効く万能ワクチンの開発が求められています。

インフルエンザウイルスには、突起の種類が違うウイルスがいくつも存在するため、それぞれの型に対応したワクチンが必要になってきます。

例えばA型のインフルエンザウイルスには、HAには15種類、NAには9種類の突起の形が異なる亜型が存在するとされています1)。現時点ではすべての型のワクチンをすべて準備するのは難しく、毎年流行する型を数種類予想してワクチンを作製しています。地球規模でのウイルスの監視が続けられているため、予想が大きく外れてワクチンが効かなかったというケースはまだほとんど起こっていないようです2)

しかしながら、同じ型でも微妙に突起の形が変わることによって、従来のワクチンが効かなくなり流行を繰り返すことがありますし、ある日突然、突然変異によって新しい型のインフルエンザウイルスが出現する可能性もあります。そうなった場合、パンデミック(世界的大流行)の恐れも出てきます。

ナノ粒子インフルエンザワクチン

上記課題を解決するために、各種ナノ粒子を用いたインフルエンザワクチンが期待されています。

経鼻インフルエンザワクチンへの応用

「上気道」で有効に作用する、経鼻インフルエンザワクチンの開発が進められています4)

ナノ粒子は、ワクチンの成分の効率的な輸送/滞留手段として、またワクチンの有効性を高めるアジュバントとして期待されています。

ナノ粒子を用いた万能ワクチン

従来型ワクチンが、HAの表面部分のたんぱく質にターゲットを置いているのに対して、万能ワクチンは、HAの表面より下の深い領域(HAの茎の部分)をターゲットにしています。

HAの茎の部分は、HA表面と比べて変化しにくく、共通なため、そこをターゲットにワクチンを作成できれば「万能ワクチン」への道が拓けると期待されています。HAの茎の部分は深い所にあるため、ワクチンをいかに深い所に届けられるかが課題の一つとなっています。

Georgia State UniversityのBao-Zhong Wang準教授らの研究グループは、HAの茎の部分へ有効に届けるため、ナノ粒子化した微小なタンパク質をワクチンに用いた研究を行っています。マウスにて実験を行った結果、H1N1、H3N2、H5N1、H2N2、H10N8、H7N9といった多くの型のインフルエンザウイルスに対しての作用が確認されています3)

【参考文献】

1) インフルエンザとは:国立感染症研究所(NIID)ウェブサイト

2) インフルエンザワクチンについて:国立感染症研究所(NIID)ウェブサイト(旧nih.go.jp)

3) “Double-layered protein nanoparticles induce broad protection against divergent influenza A viruses
Lei Deng, Teena Mohan, Timothy Z. Chang, Gilbert X. Gonzalez, Ye Wang, Young-Man Kwon, Sang-Moo Kang, Richard W. Compans, Julie A. Champion & Bao-Zhong Wang
Nature Communications,  9, 359 (2018)

4) 「経粘膜ワクチンデリバリー製剤の開発の現状と今後の展望」[PDF]、國澤 純、平田 宗一郎、清野 宏、薬剤学、76(1), 11-17 (2016)

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